大阪南部に旅行に来た
旅行ついで、試しにウーバーで配達業務をと、配達アプリを起動する
岸和田市あたりに配達需要が高騰していることを示すマーク(通称シミ)がついている
つまり、今の時間帯は岸和田市あたりも、稼げるエリアというわけだ
指でタップし、拡大してみると、奇妙な地形であることに気がついた
↑需要高騰シミ
よくみると、岸和田市じゃない・・・更に西のエリアらしい。
こんな地域があったのか。
岸和田の西は、海だった気がする。いや、俺の気の所為なのだろう。
大阪府は地元とはいえ、地理に詳しいわけではないのだから。
そこは山の中だ。
一本の幹線道路が走っている。
交差点はなく、信号もなく、ひたすらに一本の、やや曲がりくねった道。
峠道かと思ったが、
そんなところに、配達需要のシミが付くわけがない。
その一本だけの幹線道路に、飲食店や家屋が立ち並んでいるのだ。
たった一本だけの道に。
長さは20kmほどだろうか。
その道は岸和田の西部から、更に北西に伸びている。
さすがに、大阪湾があったはずだ。
いつのまに湾は干上がって、山になってしまったのだろうか。
気にしていても仕方がない。
バイクに跨り、配達に向かう。
例の道は渋滞していて、オートバイはすり抜けなければ飲食店にたどり着けない。
町の風景は、異様。
道路の左右に秩序なく、
飲食店や娯楽施設、歴史博物館、戸建て住宅が区画わけもされずに、所狭しと
押しくらまんじゅうのように、ギチギチに立ち並んでいる。
家の玄関のすぐとなり、1メートルも幅をおかず、
歴史博物館の入門ゲートがある町なんて、これまで見たことがなかった。
しかも、家も、それ以外も、ほとんどが廃墟だ。
ほとんど・・・?
いや、ただの一軒も人が住んでいるようには見えない。
廃墟となっている歴史博物館には、大正時代、
あるいは明治かそれ以前の、古い字体の漢字で書かれた看板が、
むなしく、来ることのない来館者を誘っている。
この土地について知るべきだ。俺は決心する。
このような大きなゴーストタウンが大阪の山の中ににあったなんて。
しかし配達の合間に、スマホにメモしようにも、
読むことすらできない漢字だからメモにもとれず写真を撮るだけで精一杯だ。
一体ここは何なのだろう。
博物館の入り口と、隣にある住宅の隙間には、
草木が生い茂る。ここは山の中だから。
更にその奥に、電車の線路が見える。
真っ赤に錆びついて、使われていないのは明らかだ。
歴史博物館の案内板には、駅員のような男が微笑む姿が描かれている。
そうか、ここは鉄道の町だったのかもしれない。
地図を思い出す。
岸和田から北西に伸びるこの道は、大して人も住んでいなさそうな村に続いていた。
ならば、この行列を成す車の運転手は一体どこへ向かっているのか。疑問はつきない。
行列の側方をバイクで駆け抜けながら、左コーナーを曲がって、
左側に見えた建造物に焦点を合わせて見てみると、俺はギョッとした。
巨大な邸宅・・・か?
それも、なんとツリーハウスだ。
「ご神木」と言えそうな、巨大な2本の木を支柱として、
その上に、洋風の豪邸が作られている。見たことのない大きさだ。
使用人がいてもおかしくない。
しかし、その巨大な「ご神木」のうち一本は、まるで
漫画ドラゴンボールの気功波で打ち抜かれたように、下半分が丸くえぐりとられ、貫通している。
断面は焼け焦げている。
人為的なものではないようだ。
一体、どんな現象で、こんな丸い穴が空くのだろう。
ツリーハウスが立ち続けているのが不思議だ。
豪邸をよくみると、やはり廃墟で、全体がひどく傾いている。
幅20メートルはある、大階段も朽ちて、宙ぶらりんになっている。
その階段が、まるで俺を誘うかのように、こちらを向いて、ダランと垂れ下がる。
おしゃれな勝手口の窓ガラスは割れ、
中には朽ち果てたテーブルクロスのかかった食卓や、破れて色褪せたカーテンが見える
華やかで幸福な生活をしていたであろう邸宅の栄華は、今ここで追憶のみを残す抜け殻とかし、
胸が切なくなる。
そうだ、配達を急がなければ。ときは流れているのだから。
そうこうするうちに、ウーバーで配達する料理を作る店についた。
4kmほどは走っただろうか。ほっと一息つく。
道中、明かりがついている建物もちらほらあったが、
明かりだけで、中に人は居なかった。
店に人の気配ない。明かりはついているが、無音だ。
冷蔵庫や換気扇といった、料理屋では電源を切るはずがない機器の、
動作音がわずかに聞こえるはずなのに。
洞窟の中、あるいは深山の只中にいるような、完全な無音。
不気味だ。
白いビニール袋に包まれた、スチロールの容器がカウンターに置かれている。
察するに、これが、配達するべき荷物ということだろう。
これは本当に料理なのだろうか。
いや、これは本当に
この世のものだろうか?
俺が今から、この荷物を届ける相手は本当に
人間なのだろうか?
この街は本当に、大阪か?
この時間は本当に2024年か?
明治でも令和でもない 時空の狭間のような場所
そんなところに住まう、たった1人、思い当たるフシがある注文者がいる
そうか、 「あなた」 か
迷い迷いてたどり着く
「マヨイガ」の住人
あなたさまであったか
マヨイガといえば、本来は東北のお住まいでしょうに。
貴女も旅に、でられたのだろうか。
いや、きっとあなたのは・・・、気まぐれの、お散歩でしょう。
世話役を連れだって。
それは奇遇ですね。運命かもしれない。
いや・・・まてよ。
これはすべてあなたの仕組んだことなのでしょう。
意地悪なあなたらしい、計画的な招待状・・・ですね。
今回も、まんまと乗せられてしまいました。
でも俺は、あなたと会えること以上の幸福を知らないものだから、
運命よりも、あなての手で弄ばれることのほうが、よほど嬉しく思えてしまいます。
俺は嬉しく、喜び勇んで、愛しい彼女のもとへとバイクを走らせる
霧の中、藪の奥、疲れ果てた私を待っていてくださる
私の死の淵の向こう側に立っていてくださる
唯一の御方の姿が心の中に浮かぶ
・・・・・八雲紫様のもとへ。